次世代シーケンス解析(MiSeq) COI アンプリコン解析の解析事例

COI(ミトコンドリアのチトクロム C 酸化酵素サブユニット I)は動物のDNA バーコーディングに利用可能な領域です。(※1)

解析事例:ハマキホソガ属蛾類の体内に寄生する天敵(内部寄生蜂)の推定

データ提供:京都大学生態学研究センター 中臺 亮介 様
京都大学生態学研究センター 中臺様は、カエデ属を利用するハマキホソガの多様化や種同士での共存に関わるプロセスを研究されております。
当社が一部解析を受注いたしました以下の文献では、カエデ属を利用する複数種のハマキホソガの共存を促進する要因の解明を目的としております。
文献中では、ハマキホソガの天敵(内部寄生者)を影響する要因の一つとし、10 種のハマキホソガ属から抽出したDNA について次世代シーケンサーを用いて網羅的解析を行い、ハマキホソガと寄生者の関係の解明を試みています。このようなアプローチでは、一般にサンプル内に占める割合の多いホスト生物由来のDNAの優先的な増幅が大きな問題となります。しかしながら、本解析ではハマキホソガ特異的なブロッキングプライマー(3’末端に SpacerC3 を付加)(※2)を使うことでホスト由来の遺伝子の増幅を抑えることを可能とし、ホストであるハマキホソガの同定及び体内の寄生者の網羅的な探索を効率的に行っております。
・ハマキホソガ DNA と寄生者の DNA を 50:1 の割合で混合した DNA を鋳型とし、ブロッキングプライマー存在下/非存在下で PCR を実施し、ブロッキングプライマーによる抑制効果を確認した(図 1)。また、ブロッキングプライマー存在下で寄生者 DNA 由来のリード数の相対的な増加が確認された(表 1)。
・ハマキホソガ幼虫 274 検体について COI アンプリコン解析を Miseq にて実施。得られたリード(5,423,301reads、152OTUs)から、ハマキホソガ 10 種と寄生蜂 13 種を同定し、ホスト-寄生者の関係を解明(図 2)
表1
ハマキホソガの種名 ブロッキングプライマー使用時の寄生者由来のリード数の増加率 (倍)
平均 標準誤差
C. acericola 101.57294 53.237033
C. aceris 119.01361 89.137627
C. gloriosa 163.5357 88.89275
C. heringi 239.20132 371.8013
C. hidakensis 58.999796 45.021614
C. kurokoi 78.961751 26.390926
C. monticola 125.85532 122.63845
C. semifasciella 161.78476 102.82648
C. sp. 1 119.85466 73.994502
C. sp. 3 66.890777 41.096096
本研究では、ブロッキングプライマーを用いた解析手法が、外見から検出が困難なホストと寄生者の関係を解明する上で有効な手段であることを見出しました。また、目的とする種以外の遺伝子増幅を抑え検出力を高める本手法は、当社の解析実績にもあります「野生生物の糞便解析による餌生物の推定」等にも利用が可能であり、様々な調査・研究への応用が期待されます。
※本研究で使用された Spacer C3 はオリゴ DNA 合成サービスにて販売しております。
[Spacer C3]
[参考文献]
※1. Hebert PDN, Cywinska A, Ball SL, de Waard JR (2003) Biological identifications through DNA barcodes. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 270, 313–321.
※2. Vestheim H, Jarman SN (2008) Blocking primers to enhance PCR amplification of rare sequences in mixed samples – a case study on prey DNA in Antarctic krill stomachs. Frontiers in Zoology, 5, 12.